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支部ニュース 2007年6月
京都市における景観問題
弁護士 中島 晃
  1.  画期的な新景観政策
     '06年11月、京都市は、市街地のほぼ全域で建物の高さ規制を強化することなどを内容とする新しい景観政策を発表した。れはこれまで行政がとってきた景観政策を大きく転換するものであった。
     京都では、規制緩和によって高さ60メートルの京都ホテルや京都駅ビルの建設をはじめ、都心部に高層マンションが乱立して、「応仁の乱」以来といわれる、まちこわし・景観破壊が進行してきた。これに対して、市内各地で、それぞれの地域の住民が住環境と景観保全をはかるために、独自に「まちづくり憲章」や「宣言」を採択して、まちこわしと景観破壊にストップをかけ、住み続けられる町づくりの実現をめざして、ねばり強く運動を展開してきた。
     こうしたなかで、今回発表された新景観政策は、これまで京都市がとってきた景観保全策を根本的に見直して、歴史都市京都にふさわしい景観の保全・再生をはかるものとして、積極的に評価できるものであった。勿論、今回の景観政策は、不十分な点も少なくなく、また遅きに失したとの批判を免れないものではあるが、建物の高さ規制を強化して、これまで最高45メートルまで認められてきた高さの上限を31メートルにまで引き下げるとともに、屋上広告物の撤去や点滅照明の屋外広告物の使用を禁止するなど画期的な内容をもつのものであった。こうしたことから、住民主体のまちづくりに取り組んできた市民団体をはじめ、多くの市民は、この景観政策を支持して、その早期実現を求める意見書を提出するなどの活動に取り組んだ。
  2.  新景観政策つぶしの策動とのたたかい
     今回の新景観政策が発表された直後から、宅建業者などの不動産業界や広告業界から強い反発がおこり、またすでに新たな高さ規制を上回る既存不適格のマンションの居住者のなかから、将来建て替えが困難となるなどとして、反対の声が上がった(なお、既存不適格となる建物は市内で1800棟に及んでいる)。
     このため、市長与党の自民・公明両党の市会議員のなかからも、時期尚早として、条例案の提案を見送るべきであるとの意見が出されるに至った。とりわけ、地元紙である京都新聞などに一面全部を使った宅建業者などの意見広告が4回にわたって掲載され、このままでは、建て替えができなくなるとして、新景観政策に反対する方向に市民世論を誘導する策動が執ように続けられた。
     こうした一連の動きは、表向きは、高さ規制の強化などには市民の合意が形成されておらず、時期尚早であるとして、その実施を遅らせようとしながら、あわよくば、新景観政策そのものをつぶそうという狙いをもつものであた。
     こうした新景観政策つぶしの策動が強まるなかで、07年1月、私たち自由法曹団京都支部は、新建築家技術者集団京都支部や「まちづくり市民会議」とともに、"新景観政策の早期実現をめざす・きょうと景観ネット(略称「きょうと景観ネット」)"の結成をよびかけ、「きょうと景観ネット」を発足させて、意見広告に対する反論の見解を発表するとともに、新景観政策の早期実現をめざして、行政に対して申し入れをおこない、また街頭宣伝に取り組むなど活発な運動を展開した。
  3.  歴史的な意義をもつ新景観条例の制定
     私たちのこうした取り組みと並行して、京都商工会議所の会頭が新景観政策を支持するとの見解を表明し、京都仏教界も賛成との態度を打ち出すに至った。さらに決定的だったのは、2月中旬に地元新聞が行った世論調査の結果であった。この調査では、80%を上回る圧倒的多数の市民が、今回の景観政策を支持しており、70%をこえる市民が、自分のところで規制が強化されても、これを受け入れるとの態度を明らかにした。
     京都市は、2月20日に開会された京都市議会に、新景観政策の実施に必要な条例案を提出した。しかし業界は、反対の決起集会を開催し、1万名をこえる反対署名を提出するなどして、自民党の市会議員などを衝き上げて、最後まで抵抗の姿勢を変えようとはしなかった。
     こうしたなかで、市議会での審議の状況は予断を許さないものがあったが、'07年3月13日の市議会最終日には、条例の施行を9月1日までとして、約半年間の周知期間をおくこと、屋外広告物の規制の全面適用は7年後とすることなどの付帯条件をつけて、新景観条例が可決されるに至った。
     今回の新景観条例の制定は、経済活性化の名のもとに、規制緩和を推し進めて、巨大高層ビル・マンションなどを林立させて、都市空間を利潤追及のための大型開発の場に利用してきた、我が国の都市政策のあり方を見直し、景観保全という精神的文化価値を重視する方向に踏み出したものであり、歴史的な意義をもつものということができる。
  4.  成果と課題
     今回の京都市の新景観政策は、突然登場してきたように見えるが、決してそうではない。市内各地で取り組まれてきたねばり強い住民運動の積み重ねのなかで、数年前から京都市がようやく重い腰を上げて、都心部の新しい建築ルールを定めて、職住共存地区での都心再生に向けた取り組みが始まっていた。
     また、'04年6月に成立した景観法が施行をうけて、これまでの景観政策の見直しがすすみ、'05年7月に京都市に設置された「景観づくり審議会」が市街地での中心部での高さ制限の強化などを提言する「中間とりまとめ」を発表する
    なかで、打ち出されてきたものである。その意味で、今回の景観政策は、自由法曹団京都支部とその団員などが参加して取り組まれてきた京都の住民運動が提案してきた、歴史都市京都の保全・再生を図るための市街地全域での高さ規制の強化がようやく実現するにいたったものであり、住民運動が獲得した重要な成果かであるということができる。しかし、新景観条例が成立したとはいえ、その施行にはなお数多くの問題が残されている。
     とりわけ深刻な問題は、高さ規制を上回る高層ビル・マンションなどもかけ込み建設が、市内各地で急増していることである。また、既存不適格となるマンションの建て替えにあたって、どこまで特例を認めて、高さ規制を緩和するかも問題となる。もし、特例を無制限に認めれば、折角の高さ規制が骨抜きになってしまうおそれがある。
     新景観条例が歴史都市京都の保全・再生に向けて、積極的に機能していくためには、市民による不断の監視と主体的な取り組みが必要不可欠であることはいうまでもない。また同時に、京都で始まった景観保全の試みを全国的に拡大していくことも、重要な課題である。とりわけ、東京や大阪などの大都市で、都市空間を経済的利潤追及の場として巨大企業が支配をすることを許しているという都市政策の現状を根本的に転換するという課題に、いまこそ真剣に立ち向かうことが求められている。
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