ジヤトコ偽装請負事件

1 事案の概要
(1)本件は,ジヤトコ株式会社を相手取って,労働契約上の地位確認及び賃金支払い等を求める偽装請負事件である。原告11名,弁護団13名であり,各原告に担当弁護士1ないし2名をつける形を取っている。
(2) 被告は,変速機及び自動車部品の開発,製造,販売等を事業内容とする株式会社で,原告らは被告の京都東工場あるいは京都第4工場において勤務していた。も ともと,京都東工場は三菱重工,京都第4工場は三菱自工が操業主だったが,企業分割や合併など複雑な経緯を経て,現在被告が両工場の操業主となっている。

(諸富健)
(3)原告らは,株式会社コラボレートやサーミット工業株式会社等の「請負」会社を通じて,被告の工場で勤務することになった。これら「請負」会社も名称変更や吸収合併など複雑な経緯をたどり,また当初は業務請負の形式を取っていたが,後に労働者派遣の形式へ変更した。
(4)このように,発注会社も「請負」会社も主体がコロコロと変動していく一方,原告らは一貫して同じ工場で勤務を継続していた。原告の中には10年近くもの間,被告の工場で勤務していた者もいる。
(5) 被告の工場では正社員と「請負」「派遣」社員が混在して一緒に業務が行われており,原告らも被告従業員の指揮命令の下,業務に従事してきた。さらに,原告 らは被告から直接労働時間や出欠を管理されたり,QC活動に参加して正社員とともに業務改善を提案したりもした。その勤務実態はまさに「偽装請負」状態そ のものだった。この点,被告も,京都第4工場においては,現場レベルでの被告従業員による原告らに対する指揮命令が存在していたことを認めている(一方, 被告は,京都東工場については,適正な請負だったと主張する)。
(6)被告は,いわゆるリーマン・ショックの影響を受けて,2008年12月から翌年1月にかけて,コラボレートやサーミットとの労働者派遣契約を終了させた。その結果,原告らは被告の工場で勤務を継続することが不可能になった。
(7) 原告らは,全日本造船機械労働組合三菱重工支部工作機械栗東分会(以下「労組」という。)に加入し,2009年2月24日,ジヤトコに対する是正指導を求 める申告書を京都労働局に提出した。すると,同年5月8日,京都労働局は,ジヤトコに対し,原告らの就労は労働者派遣法第40条の2第1項の期間制限違反 であると断定し,「11名の雇用の安定を図るように」との指導を行った。それを受けて,労組は,ジヤトコに対し,直接雇用を求めて団体交渉を申し入れた が,ジヤトコは組合員と会社との間には雇用関係がないとして団体交渉に応じなかった。そこで,労組は,同年6月12日,京都府労働委員会にあっせん申請書 を提出したが,このあっせんも不調に終わった。
(8)ここに至って,原告らは,法的手段に訴えるほかないと決意し,同年10月7日,ジヤトコを被告として,労働契約上の地位確認及び賃金支払い等を求めて,京都地方裁判所に提訴した。2010年6月10日現在,口頭弁論が3回開かれている状況である。

2 法律構成
(1) 訴状において,大阪高判平成20年4月25日松下PDP事件,大阪高判平成10年2月18日・最判平成10年9月8日安田病院事件を参考にしながら,原告 らと「請負」会社ら及び「請負」会社らと被告との間の各契約が,職安法44条及び労基法6条に反する強度の違法性を有し,公の秩序に反するものとして民法 90条により無効であること,及び,原告らは当初より被告の事業場で被告の指揮命令を受けながら労務に従事し,その対価としての賃金が被告から「請負」会 社らを通じて原告らに支払われていたのであるから,原告らと被告との間に客観的に推認される労働契約の意思の合致があるといえるのであり,原告らと被告と の間に労働契約が成立することを主張した。
(2)一方,被告は,最判平成21年12月18日松下PDP事件を引用し,労働者派遣法違反が認められる事案であっても労働者派遣である以上,職安法44条違反が成立する余地はなく,また,労基法6条の違反が問題になる余地はないなどと主張する。
(3) 松下PDP判決は事例判決に過ぎないが,偽装請負の場合の派遣法や職安法の適用関係について解釈を示したり,黙示の労働契約の成立に必要な要素をあげたり しており,相手方のみならず,下級審の裁判官もこの最高裁判決の枠組みに従う可能性は十分にある。したがって,いかにこの最高裁判決を乗り越えていくか が,この種の事案の大きな課題となる。我々弁護団は,2010年5月18日,4時間半以上に及ぶ弁護団会議を開催し,松下PDP判決を分析した上で,多岐 にわたって理論的な探究を深めた。その中で新たな突破口も提唱されるなど,認識を共有し合うことができたように思われる。

3 運動面
  前述のとおり,原告らは労組に加入して,労働局申告,労働委員会へのあっせん申請,そして提訴と闘いを続けている。この労組は,もともと正規労働者の労働 組合であり,本件は,正規労働者と非正規労働者が一体となって運動を展開している点でも意義深いものである。2010年2月21日には,派遣労働者(ジヤ トコ)の裁判を勝たせる会の結成総会を開き,70名以上の参加者を集めた。5月18日の弁護団会議の後には,原告,弁護団,労組が参加した懇親会を開催 し,この裁判にかけるそれぞれの思いを出し合った。団結力が高まった非常に有意義な機会であった。今後とも,原告,弁護団,労組,支援者が一体となって, 勝利判決を勝ち取るための運動を大きく展開していく決意である。

4 さいごに
 被告は,「雇用創出」を名目に京都府から約3億6 千万円もの補助金を受け取っておきながら,原告らを解雇・雇い止めした。今春闘われた府知事選においても,この点は大きな争点となった。その意味で本件 は,非正規労働者の裁判闘争であると同時に,京都府政のあり方をも問う大きな意義を有している。京都支部の団員におかれては,支部全体に関わる問題として 位置づけていただき,今後の動きに注視していただくようお願いする次第である。