労働契約法案および最低賃金法案の衆議院における修正可決に抗議し、参議院での廃案を求める声明(2007年11月27日)

  1.  衆議院厚生労働委員会は、2007年11月7日、「労働契約法案」と「最低賃金法の一部を改正する法律案」の与党と民主党の共同修正案を採決し、同月8日、衆議院本会議において両法案が可決された。
     小泉・安倍両政権で推進された新自由主義に基づく構造改革路線は、先の参議院選挙において国民の大きな批判の元に否定され、格差是正を掲げた民主党が同選挙で大勝した。その結果、民主党は、開会中の臨時国会において、与党との対決姿勢を示し、上記両法案についても独自の対案を提出していた。しかしなが ら、民主党は、表向きは対決姿勢をしめしながら、上記両法案については、全く国民の目に触れない場で与党との修正協議に応じ、両法案は、電撃的に衆議院を通過することとなった。
     我々は、このような国民不在の法案可決に厳重に抗議する。特に、民主党に対しては、先の参議院選挙において、国民の期待を一身に受けて躍進を果たしたにもかかわらず、国民生活の根幹に大きく関わる労働条件に関する法案を国民不在の手法により可決させたことについて、大いなる反省を求めるものである。
  1.  労働契約法は、労働者と使用者との雇用関係を規律するものであるが、現実には、労働者は使用者に比して圧倒的に弱い立場にある。したがって、労働者の権利保護を図ることを主目的として労働契約法は制定されるべきである。特に、長時間労働やサービス残業等、世界的に見ても劣悪な労働条件が問題となっている日本の現状においては、いっそう労働者の権利保護の視点が必要となる。
    しかるに、衆議院を通過した労働契約法案は、労使間の実質的な対等性を保障する具体的方策に欠けるばかりか、逆にこれまで判例法理等で保障されてきた労働者の権利をも後退させるものである。
    法案の最大の問題は、使用者が一方的に定めうる就業規則の変更により、労働条件の不利益変更を認める条項を入れることで、労働条件の一方的な切り下げ制度を法定化していることである。
     この点、判例法理は、就業規則の不利益変更は認められないことを原則とし、例外的に当該規則条項が合理的な場合に不利益変更が認められうるとして、具体的な基準を定律してきた。しかしながら、法案は、判例法理が具体的な判断要素としてあげてきた代替措置及び経過措置の存否や内容については規定していない。また、判例法理は、賃金、退職金など労働者にとって重要な権利や労働条件に関し実質的に不利益を及ぼす変更については、不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容でなければならないとし、必要性の程度を加重していた。しかしながら、法案は、こうした賃金、退職金などの重要な権利や労働条件について特段の配慮を行っていない。
     現実には、就業規則改定による労働条件の一方的な切り下げが横行しているのであり、法案は、かかる現状を容認し、加速させるものである。本来、労働契約法は、かかる現状を改善して健全な雇用関係のルールを定めるものでなければならない。
     さらに、法案は、労働基準法18条の2に規定されている解雇権濫用についての規定を労働契約法の中に移行させている。これは、解雇という労働者にとって重大な問題に関し、行政機関による監督を排除する可能性を有するものである。現状においても、使用者による不当な解雇が横行し、裁判という重い負担に耐えきれずに多くの労働者が泣き寝入りを強いられているのである。法案は、かかる現状に拍車をかけ、使用者による恣意的な解雇を横行させるものといわざるをえない。
     以上の通り、今回の法案は根本的な部分に問題があるから、本国会で強行採決されることには強く反対するものである。ましてや、今回の法案では見送られたが、解雇の金銭解決や労使委員会の設置など、労働者の権利を後退する方向へ法案を改正することは絶対に許されない。
     なお、民主党は作業チームを設けて独自の法案を提出するなどしていたにもかかわらず、最終的には、わずかな修正を加えたのみで政府与党案に合意した。しかしながら、民主党は、パブリックコメントでは、「企業という組織と労働者という個人との間には歴然とした力の差がある」ことを明確に認め、その前提の上に労働契約法を位置づけていたはずである。パブリックコメントでの言及内容と、今回の修正案とは相容れないはずであり、それにもかかわらず、拙速な法案成立に力を貸そうとしている民主党には強く抗議するものである。

  2.  政府財界が推し進めてきた雇用の非正規化、社会保障の空洞化等により、ワーキングプア問題が深刻化しており、これを解決ためには、現行最低賃金の抜本的な引き上げが不可欠である。今回、衆議院で可決された最低賃金法「改正」案は、生活保護との整合性を図ろうとするものであるが、現行最低賃金の抜本的引き上げに結びつくものではない。
     最低賃金水準が生活保護水準を下回るという異常な状態の解消は、当然のことであるが、多くの労働者・国民は時給1000円以上への最低賃金引き上げを求めており、今回の「改正」案はこの声に応えるものではない。また、政府は生活保護との整合性を図ると言いながら、最低生計費の水準を明らかにせず、生活保護とのどのように整合性を図るのかも不明である。政府は、一方で、生活保護水準の切り下げを企図しており、連動して最低賃金が引き下げられる懸念すらある。
     さらに、今回の「改正」案では、地域別最低賃金を任意から必須としたが、これは今日の地域間格差を固定化しかねない。全国一律最低賃金こそ実現するべきある。また、産業別最低賃金が存続されたが、罰則が適用除外されたこと、労働協約拡張方式が廃止されたことも、現行制度からの後退であり、かかる改悪を行うべきではない。
     以上により、我々は、参議院において労働者・国民の要求を受け止めて審議を尽くし、全国一律時給1000円以上への最低賃金引き上げを盛り込んだ最低賃金法の抜本改正を実現するよう強く求めるものである。

  3.  以上のように、両法案は、格差是正をもとめる国民の期待に応えるものとは言えない。自由法曹団京都支部は、労働契約法案および最低賃金法案について、参議院で廃案にすることを求める。