土地所有権の濫用を許すなー船岡山マンション建設事件(2011年1月7日)

1.船岡山マンション建設事件の発端
 2004年の終わり頃から、船岡山南側斜面地に、ユニホーなる建築業者がマンション建設を進めました。
 船岡山は史跡であり、風致地区としても第2種と認められる景勝地であり、上記マンションの建築はその環境を根底から破壊するものです。
 更に、上記建築現場周辺から五山送り火が見えなくなる、緑が大きく失われるという問題、傾斜地に建つことによる安全性の問題、住民合意が形成されない中で建築が進められているという問題、市の介入を受けて新たな変更計画が示されるもその内容が改善された斜面地条例に照らして不十分であったという問題などもあります。
 そこで、周辺住民の方々が中心となって、公共の利益にも通じる自然的な環境、文化的・歴史的な環境、ひいては景観の保持、近隣住民の住宅の安全の確保を目指してマンション建設のストップを求めて活動を始めたのがこの事件の発端でした。
2.行政不服申立て事件から行政事件訴訟判決まで
  マンション建設をストップさせるため、開発行為(切り土等)が行われているにも関わらず建築確認に際して開発許可が不要とされた問題点を中心的論点に据えて建築確認の取消しを求め、行政不服審査の申立て、行政事件訴訟の提起を行いました(民事での建築差止め仮処分も検討しましたが、担保用に高額の費用をねん出することに困難が伴ったため断念しました。)。マンション建設の停止を勝ち取るべく努力を重ね、建築家集団による緻密な資料分析、現地調査の結果に基づき、本件マンション建設に開発が伴うこと、それを看過して建築確認処分が違法であること、周辺住民が居住する建物に顕著な変位が生じていることを告発してきました。しかしながら、係争中に問題のマンションが竣工してしまい、建築確認取消訴訟そのものについては訴えの利益が失われてしまいました。改正行政事件訴訟法で認められた義務付け訴訟(建築基準法の是正指導処分を求める請求)に訴えの変更を行いましたが、同訴訟類型は訴訟要件が厳格なため、これを満たさないとして却下判決が下され、行政事件訴訟は終結しました。
3.建築業者らを相手取った民事訴訟(第1審)
 そこで、2007年3月22日、近隣住民等41名が原告となって、(1)景観被害の回復(建築物の一部除却請求と除却実現に至るまで継続的不法行為を理由とする損害賠償請求)、(2)建設工事による騒音、震動被害、家屋被害の回復(地盤強化、独立擁壁・排水施設の設置請求)、(3)本件マンションによる圧迫感の解消、プライバシー・日照権被害の回復、(4)本件マンションの地盤及び周辺住民の地盤の安全回復、等を求めて京都地方裁判所に訴訟を提起しました。行政不服審査や行政事件においては提起できる論点が限定されていましたが、民事訴訟の提起の段階でようやく、景観侵害問題を含む、この事件の全体論点を司法の場に提起することができました。以後、約2年半に亘る争点証拠整理を行い、2009年10月20日には現地進行協議期日が実施され、担当裁判官に現地における景観被害の状況、家屋被害、圧迫感、プライバシー侵害、日照被害の様子を確認してもらいました。2010年2月2日には原告本人尋問(4人)が実施され、最終弁論を経て結審しました。
 2010年10月5日、判決宣告がありました。判決は、(2)の論点のうち騒音被害につき、近接して居住する原告9人につき、受忍限度を超えるとして各44万ないし11万円の損害賠償(総額209万円)を認めたものの、それ以外の請求は全て棄却するという不当な判断でした。
4.民事訴訟第1審判決の内容と今後の取組み
 景観権侵害の主張との関係では、国立マンション最高裁判決をふまえ、平安京造営の北の起点(玄武)となり、「枕草子」を初め多くの古典に登場し、応仁の乱では西陣の由来となった船岡山の歴史的・文化的景観を評価し、周辺地域に居住する原告らの景観利益を認めたという点は特筆すべきものがあります。しかし、開発行為の看過という問題についての実質的考察を欠き、本件マンションの高さ、容積率の突出を認めながら外観や植栽から周囲の景観の調和を乱す点はないとし、国立マンション最高裁判決が採用する侵害態様基準(行政法規違反、刑罰法規違反等)に実質的に違反していないとして最終的に景観権侵害を認めなかった点は大きな問題を残すものでした。京都市が今年4月に公表した「都市計画法に基づく開発許可制度の手引」に示された開発行為の類型によっても本件マンション建設行為に際しては明らかに開発行為が存在します。それ故に明白な行政法規違反があると判断されるべきだったのです。また対象物を「見る」ということを本質的な要素とする景観権ないし景観利益にとって、対象物を見えなくする「高さ」「容積率」という要素は侵害判断の際の重要な要素であるはずなのにそれを軽視して判断することは本末転倒です。
 その他の論点についても、原告側が提出した専門家データの信用性についての深い吟味がなされているとは評し難い判断しかなされていませんでした。
3.今後の取組
  原告団は、1審判決を不服とし、大阪高裁に控訴をしました。控訴審においては、改めて、より簡明に開発許可が潜脱されたことを主張立証し、重大な行政法規違反があることに光を照らし、国立マンション最高裁判例に照らしても十分に景観権侵害を認定しうること、開発許可がなされていたら設置されるべきであった排水施設や独立擁壁の設置が認められるべきことを訴えていきたいと思います。また開発行為と評されるべき行為が無規律に行われたことから地盤家屋被害も発生しておりその原状改復が必要であることを簡明に訴えかけていきたいと考えています。

(秋山健司)