高齢者再雇用の有期労働者に雇用継続の期待権発生 大阪高裁が賃金仮払命令(2010年10月2日)

 2010年6月25日、大阪高等裁判所は、高齢者雇用安定法の下での有期の再雇用について、雇用継続に対する期待権を認め、会社に対して賃金仮払を命じる決定を出した。今、全国的に問題となっており、訴訟にも発展している高齢者雇用安定法の下の「働く権利」について、の判例なので、以下に紹介する。

事案の概要
 申立人Aさんは、ディスプレイ器具やマネキンのメーカーである株式会社ヤマトマネキンの子会社・株式会社エフプロダクトに勤務していたAさん。Aさんは1967年にヤマトマネキンに入社し、マネキンのメイクアップの業務をしていたが、子会社に転籍し、子会社の統合によってエフプロダクトで勤務するようになった。
 Aさんは、2008年6月に同社を定年退職したが、2006年に施行された改正高齢者雇用安定法の下、同法の規定に従って同社で制定された就業規則等に基づき、同社に再雇用された。Aさんは、再雇用後はディスプレイ器具やマネキンの倉庫管理業務に従事してきた。
 同社の就業規則では、定年退職した従業員は、健康や意欲や業績等の問題がない限り期間を1年として再雇用され、その後も、健康や意欲の問題がない限り、65歳まで(ただしAさんについては経過措置によって64歳まで)契約を更新することになっていた。ところが、同社は、Aさんを再雇用した後の2009年になってから、不況を理由にAさんを雇い止めした。不況といいながら雇い止めされたのはAさん一人であり、会社は雇用調整助成金を活用した一時帰休等も行っていなかった。
大阪高裁での勝利
 Aさんは、京都地方裁判所に地位確認等の訴訟を提起するともに、賃金仮払等を求める仮処分を提起したが、残念ながら仮処分は敗訴となった。しかし、京都地裁の決定文の内容は事実整理が不十分だったり、相互に矛盾していたりして、裁判所の決定文としては到底容認しがたいものだった。背景にはその当時顕在化していた、京都地方裁判所の労働部に対する事件集中にも関わらず、労働事件に関与する裁判官が増員されない、という構造的な問題があったように思われる。当事者は、裁判官が足りないせいでいい加減な決定をされてはひとたまりもない。裁判官を増員する必要性を強く感じた一幕だった。
 いずれにせよ、Aさんは京都地裁の決定を不服として、大阪高裁に抗告していたところ、2010年6月25日、今回の決定が下された。労働仮処分について、労働者側敗訴の地裁決定が高等裁判所で覆される事例もそう多くはないようである。
 大阪高裁は「本件就業規則で、再雇用に関し、一定の基準を満たす者については『再雇用する。』と明記され、帰還は1年毎ではあるが同じ基準により反復更新するとされ、その後締結された本件協定でも、本件就業規則の内容が踏襲されている。そして、現に抗告人は上記再雇用の基準を満たす者として再雇用されたのであるから64歳に達するまで雇用が継続されるとの合理的期待があった」、「抗告人が60歳定年までの間、平成7年4月以降の統合前のメディア社及び統合後の相手方において期間の定めなく勤務してきたことを合わせ考えると、本件再雇用契約の実質は、期間の定めのない雇用契約に類似するのであって、このような雇用契約を使用者が有効に終了させるためには、解雇事由に該当することのほかに、それが解雇権の濫用に当たらないことが必要」として、Aさんの地位が正社員の地位に準じるものであることを正面から認め、雇用継続に対する期待権を有していることも明言した。そして、大阪高裁は、会社に対してAさんへの賃金の仮払を命じた。

評価・今後の展望
 本件は、定年後再雇用に関する上限年齢に達する前の雇い止め事案で、申立人(原告)側が勝利したことについて全国のさきがけとなるケースと思われる。また、内容的にも高年法に基づく再雇用制度によって再雇用された労働者の地位を「正社員の地位に準じる」とした点は画期的だと思われる。
 定年後再雇用については様々な論点が提起されているが、入り口差別(特定の労働者を再雇用しない)の問題については、東京地裁判決2010年8月26日(東京大学出版会事件)が再雇用の拒否について解雇権濫用法理を類推適用して労働者の労働契約上の地位を認め、大阪地裁判決2010年9月30日(津田電気事件)では、継続雇用制度の就業規則の制定自体が労働者に対する再雇用の申し込みになり、労働者側の継続雇用の希望が承諾の意思表示になる、という判決も出ている。
 本件に関する京都地方裁判所の判決も11月26日に予定されている。今後とも、全国の動きに連帯しながら、本訴での勝利、事件の解決のため、全力を挙げる所存である。

以上


(渡辺 輝人)