「龍谷大学助手雇い止め事件」提訴報告

1.事件の概要
(1)本件は、3年の期限付きで龍谷大学経済学部助手を務めていた嶋田ミカ氏(以下、原告)が、1回目の契約更新時に雇い止めを通告されたことに対し、学校法人龍谷大学を相手取って、労働契約上の地位確認及び雇い止め以降の未払い賃金を求める事件である。弁護団は、佐藤克昭、福山和人、畑地雅之の3名である。
(2)原告は、2007年4月に、龍谷大学経済学部の「特別任用教員(以下、特任)」枠の助手として、3年契約で採用された。原告が採用されたきっかけは、龍谷大学経済学部がフィールドワーク科目の支援のための「サービスラーニングセンター(以下、SLC)」という機関を設置するにあたって、その運営を担う研究者を募集したことによる。原告は、当時から、非常勤講師をしながら、インドネシアなどアジア諸地域の経済に関する研究活動を、現地調査も含めて精力的に展開しており、その実績からSLCを担う助手の適任者として採用されるに至った。
(3)原告の雇用形態は3年の有期雇用であるが、募集要項には「教授会が認める場合1回に限り更新する事がある」とあり、内規にも「更新することができる」「任期更新の際、教授会において承認をえなければならない」と明記されていたことから、契約更新の道が完全に閉ざされていたわけではない。また、原告が採用される以前に特任枠で採用された経済学部所属の研究者についても、契約更新がなされた実績が多数存在していた。さらに、原告は、原告採用時に人事審査委員長を務めた教授(現在は退職)から「よほど破廉恥なことをしない限り、少なくとも1回は更新されるものだ」との説明を受けていた。これらの事情から、原告は、少なくとも1回は契約が更新されることが当然の前提と受けとめ、最低6年間は龍谷大学のもとで研究活動に従事することができるものと考えていた。
(4)採用後、原告は、龍谷大学経済学部の専任の助手として、SLCの運営や、フィールドワーク科目などのサポート業務、および研究活動に従事してきた。そもそもSLCは、経済学部が2006年度に2学科体制に改組されたことに伴い設立されたもので、今後恒常的に経済学部におけるフィールドワーク科目等の支援を担う予定であった。原告の担ってきた業務は、決して臨時的な性格のものではないといえる。
(5)ところが、2009年6月、当時の経済学部教務主任は、原告に対し、2010年3月末日をもって原告を雇い止めする旨を通告した。原告がその理由を問いただしても、教務主任は「(原告の)個人の能力などの問題ではない」「3年契約なので予定通り終了」「(理由は)教授会の議事録に記載してある」などと説明するだけで、それ以上の理由を説明しようとしなかった。また、教授会の議事録には、SLCの活動の総括と展望及び人事問題について検討するために設置された「SLC検討委員会」の答申文書が添付されていたが、原告を雇い止めにすること、及びその理由について明示する記載はどこにもなかった。
(6)雇い止めの通告を受けた原告は、ただちに龍谷大学教職員組合に相談した。以後、雇い止めの撤回を求めて、教職員組合を通じて申し入れや団体交渉を重ねた。大学当局側は、交渉過程において、原告の雇い止めの理由について、「SLCは機能不全の状況にあり、全面的に全事業を見直すこととなったため、これまでの特任助手の業務は継続しないとの判断によるもの」「SLC検討委員会から、特任助手の任期更新を検討すべしとの答申はなされなかった」ためであるとの見解を示すなどして、原告の要求を頑なに拒否した。
(7)結局、原告の要求が受け入れられないまま2010年3月末日が経過し、原告は雇い止めされた。そして、2010年7月5日、京都地裁へ提訴に及んだ。
(8)現在、訴訟は第6民事部いB係(大島眞一裁判官)に係属し、第1回口頭弁論期日が8月20日に開かれた。第2回口頭弁論期日は10月29日の予定である。被告側の具体的主張は今後提出される予定である(9月30日現在)。

2.争点
(1)まず、雇用継続に対する合理的期待の有無である。本件は、1回目の契約更新拒絶の事例であるところ、当事者間で更新の実績がなくとも、諸般の事情に照らして、労働者において契約期間満了後も使用者が労働者の雇用を継続するものと期待することに合理性が認められる場合には、更新拒絶による雇い止めは実質的な解雇にあたり、解雇権濫用法理が類推適用されることは過去の裁判例の示すところである(例えば、龍神タクシー事件・大阪高判平成3年1月16日、など)。原告は、前記1.(3)で述べた事情などから、雇用継続に対する合理的期待が契約締結時から生じていたことを主張している。
(2)次に、本件の雇い止めにつき解雇権濫用法理が類推適用されることを前提に、更新拒絶の有効性が争点となると思われる。この点の具体的主張については、被告側の具体的主張を待たなければならないが、あえて原告を雇い止めにしなければならない合理的な理由は一切ないと思われる。原告は、経済学部のフィールドワーク実習やスタディーツアーの企画運営など、SLCの事業に対して一定の成果をあげてきたものであり、当局側の「SLCは機能不全の状況」(前記1.(6)参照)という評価はあまりに一面的なものであると考えている。

3.運動面
(1)原告が雇い止めの通告を受けてからまもなく、相談を受けた龍谷大学教職員組合執行部は直ちに大学当局に対する申し入れを行い、団体交渉も開催し、ねばり強く交渉してきた。そして、2010年3月25日の同組合臨時大会にて、雇い止めによって失職する4月1日以降も原告の組合員資格を認めるとともに、裁判闘争に対する支援を決定するなど、積極的にこの問題に取り組んでいる。
(2)また、4月には大学関係者や有期雇用問題に取り組む当事者や労働組合関係者など約30名の呼びかけによって「嶋田ミカさんの雇用継続を求める会」が結成された。代表には、田中宏氏(元龍谷大学経済学部特任教授・一橋大学名誉教授)が就任。賛同者は9月19日現在で275人に上り、教職員組合とともに原告の裁判闘争を支援している。
(3)第1回口頭弁論期日について、当初は304号法廷(傍聴席16席)を指定されていたが、原告側からの要望もあって、直前に208号法廷(傍聴席39席)に変更された。それでも、当日は、定員を上回る約50名の支援者が傍聴に駆けつけるなど、支援の輪は急速に広まりつつある。
(4)運動が広がっている背景には、「高学歴ワーキングプア」と呼ばれる厳しい実態がある。近年、多くの大学で任期付や非常勤扱いの採用が増加し、研究者の使い捨てが横行している。現在、文科省や非常勤講師組合などの調べによると、任期付や非常勤の研究者が全国に少なくとも4万人ほどいるとのことである。博士号を取得しても、安定した就職先がなかなか見つからず、非常勤講師をいくつも掛け持ちして何とか食いつないだり、研究職の道をあきらめざるを得なかったりすることが当たり前になっているのが現実である。

4.おわりに
 原告は、「高学歴ワーキングプア」という現実に泣き寝入りせず立ち向かうことを決意したものであり、同じ境遇にあえぐ研究職たちの共感を呼んでいる。
 しかし、次の就職口のことを考えてか、有期雇用や雇い止めに対して泣き寝入りを強いられている研究者もまだまだ少なくない。弁護団としては、この訴訟を通じて、若い研究者の芽を摘みかねない大学における有期雇用問題にメスをいれ、改善の一助になればと切に願っている。

以上
(畑地雅之)