多重偽装請負をめぐる闘いは新たなステージへ 〜NTT三重偽装請負事件控訴審判決

弁護士 諸富 健

1 事案の概要
 控訴人(一審原告)は,被控訴人NTTの研究所が勤務地であるというW社の求人情報を見て応募したところ,W社社長による面接,S社社長とNTT100%子会社の被控訴人NTT・AT課長による面接,NTT研究員2名とNTT・AT課長による面接を順次受けた。1度目の面接は10分程度で終わり,2度目の面接では英語力の有無や長期勤務の可能性を確認され,3度目の面接では英字新聞の和訳を求められTOEIC700点以上の英語力があると評価された。その結果,控訴人はNTTの研究所での採用が決まった。NTT→NTT・AT→S社等→W社と業務委託の形式が採られており,NTTはNTT・ATに月額50万円支払っていたが,控訴人が受け取っていた賃金は月額18万3000円であった。
 控訴人は,1年5か月間,NTTの研究所においてNTT研究員の指揮命令下で業務に従事していたが,NTTとNTT・AT間の業務委託契約終了によって事実上の解雇に追い込まれた。
 NTTが英語能力を試すなどして控訴人の採用を決定し,その後控訴人はNTTの指揮命令下で業務に従事して,NTTが控訴人の業務に対して支払っていたものの一部を賃金として受領したのであり,控訴人とNTTとの間に明示ないし黙示の労働契約が成立することは明らかである。そこで,控訴人は,NTTとNTT・ATを相手取り,NTTとの間の地位確認,及び両社に対する損害賠償等を求めて提訴した。

2 一審判決
 2010年3月22日,京都地方裁判所は判決を言い渡し,一審原告の請求を棄却した。判決は,注文者と請負事業者の配下にある労働者との間の労働契約の成否について,「両者の間に事実上の使用従属関係があるだけでなく,請負業者の配下にある労働者が注文者を使用者と認め,これに対して労務を提供する意思を有し,注文者も請負業者の配下にある労働者を自らが雇用する労働者であると認め,これに対して賃金を支払う意思を有すると認めるに足りる事実がなければならない。」という独自の規範を立てた。これは,現実的関係の実態から判断すべき労働契約概念に反するものである上,請負の形式さえ取っていれば使用者責任を免れることを認めてしまう点で実質的妥当性も認められないものであった。
 また,判決は,「労働契約の成否を判断するにあたり,本件各請負契約が無効であるか否かが関係するものとは解されず,その判断をする必要はない。」として,職安法44条及び労基法6条違反について何ら判断を行わなかった。また,不法行為についても,損害論から不法行為責任を否定し,職安法44条及び労基法6条違反の認定を避けた。これは,松下PDP最高裁判決の判断枠組みにも反する解釈であり,さらに,被控訴人らの違法行為を判断することなく免責させており,審理不尽も甚だしいものがあった。

3 控訴審判決
 2011年2月17日,大阪高等裁判所は判決を言い渡した。控訴を棄却する不当判決であるが,一つ注目すべき判断をしている。すなわち判決は,松下PDP最高裁判決を前提に偽装請負も労働者派遣に該当するとしたが,多重偽装請負の場合,元請負人は自己が雇用していない下請負人の労働者をさらに業として注文者へ派遣していることになるから,労働者派遣に該当せず,職安法4条6項にいう労働者供給を業として行うものとして,職安法44条に違反することになり,当該労働者が就業するのに介入して利益を得た者は労基法6条に違反することになるものと解されると判示し,被控訴人らの職安法44条違反及び労基法6条違反の事実を明言したのである。一審判決が,職安法44条及び労基法6条違反の認定を避けたのと比べ,その点に真正面に向き合ったことは評価できよう。
 しかし,判決は,被控訴人らの職安法44条違反及び労基法6条違反の事実を指摘しながら,それだけでは特段の事情のない限り控訴人とW社との間の労働契約が無効になることはないと解すべきであると判示して,控訴人とW社との間の労働契約が有効であったと判断した上,控訴人とNTTとの間の黙示の労働契約について検討してこれを否定した。さらに,判決は,控訴人の地位が不安定であったことと職安法44条違反・労基法6条違反との相当因果関係を否定し,また,労基法6条違反による損害を否定して,被控訴人らの不法行為責任も否定した。職安法44条違反及び労基法6条違反の事実を認めながら損害賠償責任すら認めないのでは,企業の違法行為を野放しにしてしまう結果となるのであり,この点は必ず改められなければならない。

4 新たな闘いへ
 控訴人は上告し,舞台は最高裁判所に移る。おそらく,多重偽装請負をめぐる初めての最高裁の判断が出ることになる。多重偽装請負の法的構成,事前面接が労働契約の成否に与える影響,職安法44条違反・労基法6条違反と損害論など,今後の非正規労働者の闘いに大きな影響を及ぼす裁判となる。今後とも大きなご支援をお願いしたい。

以 上