韓国非正規労働調査旅行

 2011年5月30日?6月1日、自由法曹団京都支部の有志が中心となり、韓国の非正規労働の調査旅行に行ってきました。調査団は総勢10名、調査団長はもちろん中村和雄団員です。そのほかに、京都支部からは、糸瀬美保団員、塩見卓也団員、毛利崇団員、そして私大島が参加しました。
 詳しい調査の報告書は労旬に掲載される予定ですので、ここではそのさわりと、労旬には書けないこぼれ話的な報告をいたします。

韓国の「非正規職保護法」
 日本と同様、韓国においても1990年代後半から非正規労働者が急増しています。増加する非正規労働者に対応するため、韓国では2006年末、「非正規職保護法」と呼ばれる一連の法律が制定・改正され、翌2007年から施行されました。
 「非正規職保護法」とは、具体的には、「派遣労働法」の改正、「有期雇用と短時間労働者保護等に関する法律」の制定、「労働委員会法」の改正の3つの法律制定・改正を指します。これら一連の法律による「保護」の特色は、まず、いわゆる「出口規制」を設けている点で、派遣労働及び有期雇用については契約期間の上限を2年とし、それを超えた時点で期間の定めのない契約を締結したものとみなすとしていることです。次に、非正規労働者に対する差別的処遇を禁止し、労働委員会による差別的処遇の是正申請の手続きが規定されたことがあげられます。
 「非正規職保護法」施行から2年以上が経過した現在、非正規から正規への転換が行われ、非正規労働者の労働条件は改善されたといえるのか、今回の調査の大きな目的は、このことを現地で確認することにありました。

安重根記念館訪問
 渡韓したのが日曜日ということもあり、また、訪問先との日程調整の都合もあって、初日の午後はいきなりオフとなりました。調査団一行は、安重根記念館を見学することにしました。安重根といえば、日本では伊藤博文を暗殺した「極悪人」であるのに対し、韓国では植民地支配に抵抗した「英雄」とされている人物、という認識はありましたが、あらためて、「侵略者」の側からのみ歴史を見てはいけないと認識させられました。
 ただ、展示物全てにはもちろん韓国語の解説文がついているのですが、展示により、英語の解説もついているところと、英語と日本語の両方の解説がついているところがあるのです。かろうじて理解できる英語の解説を読む限り、日本への微妙な配慮から使いわけがなされているらしく、複雑な思いでした。

感激の韓国料理
その日の夕方はミーティングを行い、今後のスケジュール確認や役割分担を非常にテキパキとこなした後、昼間の散策で目を付けていた焼肉店で夕食となりました。ちょっと甘めのマッコリと辛い韓国料理は絶妙の組み合わせ、どんどんボトルが開いていきました。
さらに、比較的若手京都支部団員らは、前日は仕事でほとんど寝ていないという塩見団員の部屋で2次会を行いました。持ち込んだ酒では足りず、塩見団員がキープしてあったマッコリも飲み干し、それでも足りずに深夜のコンビニまで買い出しに行き、事務所も日付も超えた親睦を深めたのでした。

労働組合の座り込み現場見学
 2日目からはいよいよ調査開始です。最初に訪れたのは、労働組合が座り込みをしている現場でした。高級ホテルやオフィスビルが立ち並ぶソウル中心、その名もソウル広場、そのすぐ脇の歩道上に労働組合が巨大な横断幕やテントを設置していました。時には国家権力に強制的に排除されながら、訪問日現在で実に1228日わたる座り込みを続けているそうです。
 私たちは、歩道脇にビニールシートを広げて車座になり、労働組合の委員長や、全国非正規労働組合連帯会議という、非正規労働者の連帯組織の方々の話を聞きました。韓国では、「特殊雇用職(労働者)」といわれる、日本でいう偽装個人請負業主がおり、座り込みも、特殊雇用職の権利を守るための闘いの一環ということです。また、「非正規職保護法」については一様に辛口の評価で、経営団体は、派遣と有期契約を交互に行うという、脱法行為を公然と勧めているという、びっくりするような話もききました。
 約3時間に渡る聞き取りでしたが、路上でピクニックをしているかのような開放感と、警察がきたら私たちも連行されるかもという緊張感も味わいつつの調査でした。

ソウルで一番きれいなトイレ
 2日目の夕食は、調査団の一致した意見で「地元の人が行くような普通の店」に行きました。1日目の店よりも格段に値段が安く、その割にかそれ故にか満足度は非常に高いものでした。すっかり良い気分になった調査団一行は、さらに夜のソウル市内を散策して高層ビルの最上階に登り、スカイラウンジには見向きもせず、韓国労働研究の第一人者である龍谷大学脇田教授一押しの「ソウルで一番きれいなトイレ」の夜景を堪能しました。

非正規労働センター
 3日目午前は、非正規労働センターの事務所を訪問しました。非正規労働センターとは、韓国のナショナルセンターの一つである全国民主労働組合総連盟(民主労総)内の組織です。非正規労働センターでは、韓国政府が行う調査結果を独自に分析しており、貴重な統計資料等を得ることができました。また、非正規労働センターにおいても、「非正規職保護法」の評価は低く、2年の契約期間経過後、そのまま無期契約となって雇用は安定したものの、給与や待遇の面では正規労働者と差がある「無期契約職」「中間職」と呼ばれる労働者が増えている実態が分かりました。

全国民主労働組合総連盟(民主労総)訪問
 非正規労働センター訪問にひきつづき、ナショナルセンターである民主労総を訪問し、未組織非正規室の室長のお話を聞きました。
 ここでは、民主労総が独自に入手した有期雇用契約終了後の政府の調査結果を知ることができました。この調査結果によれば、2年経過後、契約終了となったのは16.2%、正規労働者に転換したのは16.9%、そして実に66.9%が「無期契約職」「中間職」と呼ばれる曖昧な雇用形態の労働者となっているとのことでした。したがって、民主労総としては、「非正規職保護法」について、一定の効果をあげてはいるものの、保護の趣旨は徹底されていないという評価をしていました。
 また、民主労総では、ナショナルセンターらしく、非正規労働者の差別是正のための様々な訴訟活動も紹介されました。これら訴訟は「企画訴訟」と呼ばれており、ナショナルセンターがその組織力を駆使して行う裁判闘争は、弁護士の立場からも興味深いものでした。
 
ゼッケン付けたまま食事
 民主労総の訪問終了後、ちょっと早い夕食を近くの食堂で取りました。場所柄のせいか、労働組合のゼッケンを付けたまま食事をしている労働者がそこかしこに、さらに、京都のとある組織の著名な方にそっくりな方までおられ、ちょっと懐かしい気分に浸りました。
 ここでは、めずらしい韓国料理(名前は失念)にもチャレンジしました。私個人は、こうした地元でしか味わえないレアな料理が大好きなのですが、文字通りチャレンジで終わった方もおられました。
夕食後、調査団有志は、降り出した雨をものともせずにソウル中心街に繰り出し、屋台の酒で最後の夜を締めくくったのでした。

201109_minben.jpg民弁労働委員会訪問
 最終日は、韓国における自由法曹団的な存在、民主社会のための弁護士集団(民弁)の労働委員会を訪問しました。
 ここでは、「非正規職保護法」制定後の、労働委員会や訴訟における実態など、弁護士の立場からぜひ聞いておきたい事項についての質疑応答を行いました。辛口の評価が続く「非正規保護法」ですが、法制定後、韓国では、法的な役割を与えられた労働員会が、裁判所よりもむしろ積極的に差別是正のための調査を行っているということで、意外な面を聞くことができました。
 余談ですが、韓国の弁護士バッチにもやはり天秤がデザインされていました。

最後に
 個人的には、本当に久々の長期出張及び海外でしたが、当時配偶者の仕事が激増していたこともあり、実は直前までキャンセルしようかと迷っていました。いざ行ってみれば、本当によく学び、よく食べ(飲み)、充実した調査旅行で、機会があればまた参加したいと思いました(現実には当分無理ですが)。