関西建設アスベスト京都訴訟を提訴!

京都法律事務所  弁護士  福山 和人

1 関西建設アスベスト京都訴訟の提起
  今年6月3日、京都地裁において、京都在住の建設作業従事者及びその遺族11名が、国と石綿含有建材製造メーカー44社を相手取って、損害賠償請求訴訟を提訴し、8月3日には第1回弁論が行われた。
  本稿では、この訴訟の意義と主な争点、展望等について述べたい。
2 アスベスト被害とは何か
 そもそもアスベスト(石綿)とは、天然に産出される繊維状の鉱物である。耐熱性、断熱性、耐火性、防音性、耐摩擦性、絶縁性、耐腐食性等の特質を持ち、安価であったことも相俟って、我が国では、1960?1990年代にかけて1000万トンを超えるアスベストが輸入され、3000種類もの製品に使用されてきた。
 しかしアスベストを含む粉じんを吸引(曝露)すると、肺ガン・中皮腫等の重い健康被害を引き起こす。そのことは、2005年のいわゆる「クボタショック」以降、広く知られるようところとなった。クボタの旧神崎工場では、従業員や出入り業者が肺ガンや中皮腫を発病し78名が死亡していたことが公表され、これを発端にニチアス(株)の166名をはじめ、全国の石綿関連企業が自社従業員の多数の死者数を次々と公表し、すさまじい石綿被害の実態の一端が明らかにされた。
 我が国では、中皮腫により現在毎年約1000人が死亡しており、今後10万人が死亡すると推定されている。アスベストは「静かな時限爆弾」と言われるように、長期の潜伏期間を経て発病するため、今後も被害が広がり続ける可能性が高い。アスベストによる肺ガン、石綿肺の死亡者を加えると、我が国だけで今後数十万人の被害者が出ると推定されており、まさに史上最大の産業被害である。
3 アスベストの危険性はわかっていた
 アスベストの危険性は戦前から知られており、その医学的知見は、石綿肺については戦前の内務省保険院調査(1937?1940年)で、肺がんについてはイギリスのリチャード・ドール博士の報告(1955年)で、中皮腫についてはニューヨーク科学アカデミーの報告の公刊時(1965年)には確立していたと言われている。
 こうした医学知見の確立に伴い、ノルウェーやスウェーデンといった北欧諸国では1970年代から、その他の国でも1980年代からアスベスト使用量を急速に減らしていった。ところが、日本では、むしろ、その後、アスベストの使用は広がっていった。日本におけるアスベストの輸入は、1974年に一度目のピークを迎え、1988年には二度目のピークを迎えることになる。本来ブレーキを踏むべきところで、逆にアクセルを踏んでアスベストの使用を拡大させたことになる。実に、我が国では、2006年に全面使用禁止となるまで、危険と知りながら、大量のアスベスト製品、特に建材の製造・流通・使用が続けられてきた。
4 主な争点〜国と建材メーカーの責任
(1)国の責任
  ア 建築基準法に基づく責任
    国は、1950年制定の建築基準法2条9号で、石綿板を「不燃材料」として規定したのを皮切りに、高度成長という国策遂行の旗印の下、多数の高層建築物や住宅を供給するため、度重なる法令改正、通達、日本工業規格(JIS)等において、石綿含有建材を不燃材料、耐火構造、防火構造等に指定し、その使用を積極的に推進してきた(積極加害行為)。また危険性が分かった後も、その指定を解除しなかった。
イ 労働関係法令に基づく責任
  国は、旧労基法42条、45条、48条、安衛法55条に基づき、少なくとも1955年時点で、建材メーカーに対して、石綿建材の製造禁止措置を講じることができたのに、それを怠った。また国は旧労基法42条、45条、安衛法22条、27条、57条に基づき、少なくとも1947年時点において、建材メーカーに対して、石綿建材の危険性について警告表示を義務づける措置を講じることができたのに、それも怠った。
  国は、旧労基法42条、45条、安衛法22条、27条に基づき、少なくとも1955年時点で、建設工事の事業主に対して、石綿吹き付け作業を禁止する措置を講じることができたのに、それを怠った。
  国は、旧労基法42条、45条、安衛法22条、27条、57条、59条3項、65条1項に基づき、少なくとも1947年時点で、建設工事の事業主に対して、石綿建材に衝いての警告表示・防じんマスクの義務づけ、粉じん測定と改善の義務づけ、石綿の危険性についての特別教育の実施等の曝露防止措置を義務づけることができたのに、それを怠った。
  そうした規制を怠った結果、建設作業従事者は何も知らされないままに危険な石綿作業に従事し続けてきたのである(規制権限の不行使)。
(2)建材メーカーの責任
石綿含有建材製造メーカーは、石綿の危険性を知りながら、建築関連法令やJISにおける石綿建材の指定を獲得するために、業界挙げて働きかけを行うとともに、石綿の有害性を否定するキャンペーンまで繰り返し行って、大量の石綿含有建材を共同して製造・販売し続けた(共同不法行為)。(株)アスク(現(株)エーアンドマテリアル)などは、1976年には非石綿製品の生産を開始し、海外には非石綿製品を輸出しながら、国内には石綿製品を販売し続けるという姑息な手段まで弄した。
(3)まとめ
 このようにアスベスト被害は、危険性を知りながらアスベストを含有した建材を製造・流通させ続けた建材メーカーと業界の利益を優先して被害発生を放置してきた国等によって作り出された人災である。この裁判では、国による積極加害行為及び規制権限の不行使の違法行為が認められるか、建材メーカーの共同不法行為が認められるかが主な争点となる。
5 なぜ訴訟を提起したのか?不十分な救済
アスベストによって被害を受けた労働者は、労災認定を受ければ労災保険給付を受けられる。事業主や請負人・一人親方など「労働者」ではなく、本来労災の適用を受けられない場合も、労災に「特別加入」すれば労災保険給付が受けられる。しかし、全ての被害者が労災認定や特別加入をしているわけではないし、決して十分な救済を受けているわけでもない。それ故、被害者や遺族は、訴訟を通じて、十分な補償と抜本的な対策を求めざるを得なかったのである。
6 なぜ建設アスベスト訴訟なのか
  アスベスト関連訴訟としては、(1)泉南アスベスト訴訟(大阪地裁。2006年5月提訴、2010年5月19日勝訴判決。今年8月25日に大阪高裁判決が予定)、(2)尼崎アスベスト訴訟(神戸地裁。2007年5月提訴)(3)首都圏建設アスベスト訴訟(東京地裁、横浜地裁。2008年5月?6月提訴、横浜で今秋結審、来春判決予定。東京でも来年の早い時期に結審、来夏判決予定)、(4)札幌建設アスベスト訴訟(2011年4月25日提訴)、(5)関西建設アスベスト京都訴訟(2011年6月3日提訴)、(6)関西建設アスベスト大阪訴訟(2011年7月13日提訴)の各集団訴訟が係属しているほか、(7)福岡でも今年10月には建設アスベスト訴訟が提訴予定である。
  これらのうち、(1)の泉南アスベスト訴訟は規制権限不行使による国の責任を初めて認めた画期的な判決である。ただ、(1)や(2)は石綿製品工場で働いていた労働者や家族、近隣住民らが国と企業を相手に提訴した訴訟で、いずれも被害者や地域が限定されている。
  これに対し、(3)(4)の訴訟は建設業従事者を原告とするもので、被害地域に限定がない。アスベストによる被害者は、必ずしも建設業従事者に限られるものではないが、我が国ではアスベストの7?8割が建材に使用されていたことから、建設業従事者に被害者が集中している。しかも500万人とも言われる建設業従事者は全国どこにでも存在している。その意味では、想定される被害者の数においても、被害の地域的な拡がりにおいても、建設業従事者におけるアスベスト問題は、被害救済の主戦場ともいうべき位置づけを有する。
7 京都での建設アスベスト訴訟の意義と今後の展望
  京都での訴訟は、上記(3)?(4)の東京・横浜・札幌の各訴訟と、昨年11月に提訴された静岡の訴訟(これは被害者が一人だけで国のみを被告としている)に続くもので、西日本では初の建設アスベスト訴訟である。京都に続いて大阪でも提訴され、今後、福岡でも建設アスベスト訴訟が提起される予定であり、全国にたたかいが広がっていくだろう。
 8月3日の第1回弁論では、京都地裁の101号法廷の傍聴席も含めた右半分が被告代理人で埋まる一方、左半分は原告、原告代理人、各地からの支援者も含めた傍聴者で埋まり、立錐の余地もないという異様な雰囲気の下で行われたが、国と被告企業は全面的に争う姿勢を見せた。
 この裁判では、個別被害に対する国と企業の謝罪と救済はもとより、被害者救済基金の設立、適切な労災認定、曝露防止対策の実施、治療体制の確立、アスベスト除去対策等を講じさせること等、総合的な政策形成をも求めていくことになる。
京都の生存原告10名の平均年齢は70歳、最高齢は78歳と高齢に達しており、早期解決が至上命題である。それらの獲得目標の達成と早期解決の両立は容易ではなかろうが、弁護団としては、全国の運動と連帯しながら、全力を挙げてたたかっていく所存である。
 これまでも京建労を中心に支援組織「たんぽぽの会」が結成され、活発な支援活動が繰り広げられてきたが、訴訟勝利と全面解決のために、一回りも二回りも大きなご支援をお願いしたい(弁護団は村山晃(団長)、佐藤克昭(副団長)、福山和人(事務局長)、大河原壽貴、秋山健司、古川拓、毛利崇、諸富健、吉本晴樹、谷文彰、津島理恵)。