「取り調べの可視化と裁判員制度を考える市民集会」の報告

津島理恵

一 はじめに
 郵便不正事件における捜査機関の不祥事や大阪府東警察署警察官による取調中の暴言脅迫事件などを機に、市民の間でも取り調べ過程の全面的な録画・録音(全面可視化)の必要性が認識されつつあります。
 この時期に、全面的可視化実現に向けた運動をさらに盛り上げ、また、裁判員法施行3年目の見直しの時期を迎えるにあたり、えん罪を生まない制度にするためにどうすればよいかを学び考えることを目的に、2011年5月14日、ジャーナリストの江川紹子さんと古川美和団員を講師として、「取り調べの可視化と裁判員制度を考える市民集会」(以下「集会」といいます。)を開催しました。
 開催の約2ヶ月前から街頭宣伝や関係団体等へオルグ活動を行い、集会への参加や協賛金の協力を求めました。
 その結果、東日本大震災の影響があったにもかかわらず、昨年を大きく上回る協賛金の協力を得るなど、各団体から様々なご協力をいただきました。また、集会当日には、200名を超える方にご参加いただきました(昨年実績の2倍以上)。
二 集会の内容
(一)江川さんのお話
 新聞記者時代に取材した事件を機にえん罪問題に取り組むようになったというエピソードからはじまり、検察の在り方検討会議に関わった経験や足利事件、郵便不正事件などの取材を踏まえて、裁判員制度とえん罪について、市民目線でお話いただきました。
 殺人事件で取り調べを受けた人が、無実であるにもかかわらずなぜ自白してしまうのかについて、警察による誘導や本人の弱みに付け込むような働きかけなどの様子が具体的に語られ、全面可視化が実現されていない現状においては、誰もがえん罪被害者になりうる状況にあるという問題意識が会場全体で共有されました。そして、取り調べの一部録音録画、特捜部事件の録音録画がようやく始まり、ゆっくりとしたペースではあるが可視化の方向に進んでいることが語られました。また、足利事件では菅谷さんの取り調べ状況の一部が録音されており、それを聞いてみたけれど、無理矢理自白させられているとは到底思えなかったとの感想が述べられ、えん罪を防止するためには、やはり全面的な可視化が不可欠であることが強調されました。
 また、裁判員制度が始まったことにより、公開の法廷における口頭でのやり取りが増え、調書中心裁判から公判中心裁判へ変わりつつあり、裁判所が「紙好きマインド」から脱却し公判供述を重視するようになることで、自白に固執する捜査手法が改められ、自白を無理強いすることが減り、えん罪が減るのではないかという展望についても語られました。

(二)古川団員のお話
 古川団員からは、日弁連裁判員制度実現本部での議論や裁判員裁判を何件も手がけた経験を踏まえて、具体的な事案を示しながら分かりやすくお話いただきました。
 自白調書があまりに論理的に書かれていたため、「被告人の性格からすればそのような供述をするとは考えられない」と裁判所が判断し調書の信用性が否定された事例などが紹介され、現在の取り調べの問題点が明快に語られました。また、裁判員の意見を聞いて「目から鱗が落ちた」と話す裁判官もおり、市民参加が刑事裁判に良い影響を与えているとの報告がありました。
 ただ、他方で、裁判員の負担を考慮するあまり、「裁判員のための裁判」になっているなど問題点が多いため、検察官手持ち証拠の全面開示、無罪推定の原則の説明方法の徹底、裁判員の守秘義務の緩和など制度面及び運用面の改善が必要であることについて説明されました。

(三)質疑応答・アンケート結果
 質疑応答の時間には、会場から多数質問が寄せられ充実したものになりました。
 参加者のアンケートは、「参加してよかった」との好意的な意見がほとんどでした。また、「可視化は必要だが、可視化によって何がどの程度犠牲になるかという話を聞いてみたい。」「裁判員になった方の話を聞いてみたい。」「死刑制度の話をもっと聞きたい。」など、刑事裁判について学び考えたいという具体的かつ積極的な意見がたくさん寄せられました。

三 集会を終えて
 今回の集会の目的は、全面可視化の運動をさらに広めるとともに、えん罪を生まない制度について学び考えることでした。
 「えん罪や取り調べ可視化の問題を風化させることなく、市民が関心を持ち続けることが重要である」と江川さんが話しておられたように、市民が関心を持ち、社会にアピールしていくことが大切です。アンケート結果をみると、このことについて集会参加者の多くの方から共感を得られたのではないかと思います。